活動報告

2024年10月例会 中小企業におけるブランディングを考える

はじめに

2022年版中小企業白書にも「ブランドの構築維持に向けた取組」が言及されている通り、中小企業においても販売促進や利益向上策として「ブランド」に注目する動きが増えています。当研究会では、ブランドの本質およびブランディング(ブランド構築)の過程を見直し、日本の中小企業経営におけるブランディングの重要性について検討を行いました。
その結果、以下の結論に至りました。

• 無形資産への投資が重要

ブランドの取り組みそのものが直接的に売上総利益や取引価格の向上をもたらすわけではありません。知的財産など無形資産への投資が、価格決定権を持つ商品・サービスの獲得を可能にし、その結果として売上や価格の向上が実現されるのです。
• 中小企業におけるブランディングの負荷
中小企業では、創業オーナーがブランドの象徴となるケースが多く、社内外の関係者も限定されています。そのため、ブランディングを“特別な取組”として進めることは負担が大きく、多くの企業にとって過剰な取り組みになりがちです。

• 事業承継時のブランディングの役割

事業承継のタイミングにおいて、創業者の理念を引き継ぎつつ、新旧の関係者の意識を統一するためには、ブランディングが有効です。変えるべきものと変えてはいけないものを明確にし、一つの目標に向かって進むための指針となります。
ブランドの語源は古ノルド語で「焼き印」を意味します。中世ヨーロッパのギルド社会では、商品の品質を保証し信用を得るために「商標」を使用していました。当時のブランドは、所有物を示すものから生産者を識別する手段へと変化しました。これは、企業や従業員が優れたサービスを提供し、それを顧客が信頼して利用するという日本の「のれん」に通じる考え方です。
ブランドとは、企業側から見ると、商品・サービスを提供する上での理念や方針、行動基準を指します。ロゴやデザインは、顧客の信用を積み上げるための手段に過ぎません。中小企業支援の現場では、時間・費用・労力の制約から、ブランディングがデザイン作業に偏りがちですが、理念を欠いたブランディングは、見た目だけの「化粧箱」を作っているに過ぎません。ブランドの本質は、企業内部の「現場力」を高めることにあります。

ブランドの経済効果に関する研究は、1980年頃からアメリカで発展しました。アメリカの多様な社会環境では、従業員や顧客が感覚的に理解できるようなブランディングが発展しました。しかし、日本の中小企業は、創業オーナーが直接的にコミュニケーションを取れる環境にあるため、アメリカの大企業とは前提が大きく異なります。
中小企業において、経営方針はオーナーの裁量に大きく依存しています。世代交代やM&Aなどの事業承継時には、創業オーナーに依存しない形で理念や方針、行動基準を明確にする手段としてブランディングを取り入れることが有効です。

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