■ はじめに
経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」により示された「2025年の崖」は、老朽化したITシステムを放置したままでは、企業の競争力が大きく低下し、年間最大12兆円の経済損失につながるという深刻な課題です。本レポートから6年が経過した今、中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進状況と、その対応策があらためて問われています。
■ 中小企業におけるDXの現状
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「DX動向2024」によると、従業員1,001人以上の企業では約97%がDXに取り組んでいる一方で、100人以下の中小企業では約45%にとどまり、取り組みの遅れが顕著です。AIや生成AIの導入も同様に、企業規模に比例して導入率に大きな差があります。
また、DXを推進する上での課題として、「老朽化・ブラックボックス化したシステムの存在」「データ活用の不足」「セキュリティリスクの高まり」「IT人材の不足」「Windows10などのサポート終了」などが挙げられています。特に人材不足については、DXの取り組みが進むにつれて深刻化しており、今後のボトルネックになると考えられます。
■ 2025年までに対応したいデジタル課題とその実践策
① システムの刷新とデジタル化の第一歩
DXの第一歩は、「デジタイゼーション(ペーパーレス化)」と「デジタライゼーション(業務プロセス全体のIT化)」です。いきなり大規模なDXを目指すのではなく、業務の一部をIT化するところから始めることが重要です。
中小企業にとっては、クラウド型パッケージソフトの活用が効果的です。Microsoft365やfreee、スマレジなどを導入することで、初期コストを抑えつつ、業務効率を高めることができます。また、自社の業務に完全に合わない場合には、ノーコード・ローコードツール(例:kintone、AppSheet、Zapier)を活用して補完する方法も注目されています。
② Windows11への移行
2025年10月にはWindows10のサポートが終了します。多くの中小企業がいまだWindows10を利用しており、セキュリティリスクが高まる前にWindows11への移行を計画的に進めることが求められます。移行前にはアプリの互換性や周辺機器の動作確認を徹底し、アップグレード後も大型アップデートに備えた検証が必要です。
③ サイバーセキュリティ対策
2024年上半期のランサムウェア被害の約64%は中小企業が対象となっており、特にVPNやリモートデスクトップの脆弱性が狙われています。自宅Wi-Fiのセキュリティ強化や業務用・個人用端末の分離、パッチの定期適用、従業員教育など、コストを抑えた基本的対策から段階的に取り組むことが重要です。
④ IT人材の育成と助成金の活用
中小企業のIT人材不足は喫緊の課題であり、DXの基盤となる従業員のITリテラシー向上が必要不可欠です。業務のデジタル化を担える人材を育成することで、社内での内製化や業務改善の推進が可能となります。
厚生労働省の「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」などを活用すれば、研修費や賃金の最大75%が補助され、IT教育の実施ハードルが下がります。調査によると、利用経験者の約7割が「利用して良かった」と回答しており、今後より多くの企業で活用されることが期待されます。
⑤ 生成AI・ノーコードの新潮流
近年、生成AI(ChatGPT、Gamma、Napkin AIなど)やノーコードツールの発展により、非エンジニアでもアプリやレポート作成が可能となってきました。
例えば、販売管理パッケージの不足機能をノーコードで補完したり、クラウドECのKPI不足をGoogleスプレッドシートで自動連携・可視化したりする事例が登場しています。
今後は「ツールを使いこなす力」が中小企業の競争力を左右する時代になります。
■ おわりに
中小企業のDXは、大企業のような潤沢なリソースがなくとも、「できるところから着実に進める」ことが成功の鍵です。まずはパッケージソフトの導入と業務の見直しから始め、ノーコードや生成AIなど新しい技術の活用に挑戦することで、業務効率と競争力を大きく高めることができます。
2025年の崖を乗り越え、持続的な成長を実現するために、今こそDX推進の第一歩を踏み出す時です。