活動報告

2023年06月例会 「人権デューデリジェンス」の法制化に関する情報と基礎知識

1.こんな記事を目にしました。

・ドイツでデューデリジェンス(DD)法が成立、2023 年1 月に施行。
・人権DD 法、日本も法制化着手。政府、サミット議長国として遅れに焦り
(毎日新聞、2023 年4 月30 日)

2.人権DD とは?

人権デューディリジェンス(以下「人権DD」)とは、企業がサプライチェーン上を含め
た事業における人権リスク(例:強制労働など)を特定し、その防止・軽減を図り、取組
みの実効性や対処方法について説明・情報開示する、という一連の行為を指します。世界
的に「ビジネスと人権」への関心が高まる中、企業に求められる取組みとして人権DD に
も注目が集まっています。
欧州を中心に人権DD の義務化は進んでおり、イギリスでは一定の条件のもと、イギリ
ス国内で事業を行う企業に人権DD の実施を法で義務付けています。日本では、政府によ
り「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」(2020 年)、「責任あるサプライチ
ェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(2022 年)が策定されるなど、国として
企業の人権DD の実施を促進しています。
人権DD をはじめとする人権尊重の取組みを企業が推進することは、社会課題の解決に
つながるとともに、投資の呼び込みなど自社にも好影響を与えると考えられる一方で、取
組みが不十分と判断された場合には経営リスクにもなりえます。日本の国際的な競争力の
向上のためにも、引き続き官民が連携して取組みを推進していくことが望まれています。

3.人権侵害の事例は?

1)スウェットショップ問題

主にアパレル業界で発生する問題で、工場労働者が過酷な労働条件で働かされ、賃金も
低く、人権が侵害される問題です。多くは発展途上国の工場で生産される製品が関わって
います。

2)ロヒンギャ問題

ミャンマーの少数民族であるロヒンギャ人が、人権侵害を受けている問題です。軍事政
権による弾圧や迫害、強制的な移住などが行われており、多くのロヒンギャ人が逃れるた
めに国外に出ています。

3)スポーツにおける人権問題

主にFIFA やIOC などの国際競技団体において、ワールドカップやオリンピックなどの
大会開催地の選考において、人権問題が取り沙汰されることがあります。開催地での強制
労働や人権侵害などに対する対応が求められます。

4)食品産業における人権問題

食品産業においては、農場での労働者や漁業労働者が過酷な労働条件で働かされ、賃金
も低く、人権が侵害される問題があります。また、食品生産に関わる環境破壊が、人権に
対する影響を及ぼす場合もあります。

5)児童労働問題

発展途上国で特に深刻な問題で、年齢の若い子どもたちが労働に従事させられている問
題です。労働が過酷であったり、教育機会を奪われていたりすることが多く、子どもたち
の人権が侵害される問題です。

6)女性に対する暴力問題

性的暴力やハラスメント、女性の取り扱いに関する差別的な制度や風習など、様々な問
題があります。特に発展途上国では深刻な問題であり、国際社会での取り組みが求められ
ています。

4.国内の中小企業に関連した事例

1)人権侵害の事例としては、2017 年に発生した「チャンネル桜問題」が挙げられます。

この問題は、インターネットテレビ局「チャンネル桜」が、中韓に対するヘイトスピーチ
を放送したことで物議を醸しました。この問題により、広告スポンサーが降りるなど、チ
ャンネル桜に影響が出たほか、スポンサーになっていた企業も批判を浴びました。このよ
うな事例は、中小企業にとっても、事業に携わるすべての人が人権を尊重し、人権侵害を
行わないことが求められることを示しています。

2)株式会社クリエイト・レジェンド

2016 年、神戸市に本社を置く飲食店チェーン「すたみな太郎」の委託先である同社が、過
労死した従業員の遺族から労災認定を受けました。同社は労働時間を厳しく管理し、労働
基準法違反を繰り返していたとして、従業員側からの提訴を受けました。

3)株式会社スリーエフ

2017 年、同社は外国人技能実習生に対し、最低賃金を下回る賃金や過酷な労働環境を強い
るなどの人権侵害が発覚しました。これを受け、同社は厚生労働省から改善勧告を受け、
人権教育の徹底や外部の第三者機関による監視などを行っています。

4)株式会社オオトモコ

2018 年、愛知県に本社を置く同社は、非正規従業員に対し、加工食品の生産ラインで過酷
な労働環境を強いていたとして、従業員側から提訴を受けました。同社は労働時間の過剰
や休憩時間の削減など、労働基準法に違反する労働条件を設定していたとされています。
5)性的ハラスメント:女性従業員に対して性的な言動や行為を行うことで、職場環境を
悪化させるケースがあります。例えば、2019 年には広島県の卸売業者で、女性従業員に対
する性的ハラスメントが発覚し、会社側が謝罪と改善策を発表した事例が報じられました。

7)差別:従業員に対して、人種や性別、年齢などに基づく差別的な言動や行為を行うケ
ースがあります。

例えば、2018 年には大阪府内のパチンコ店で、在日韓国・朝鮮人を差別
する旨の貼り紙が掲示され、批判を浴びた事例が報じられました。
これらの事例からも分かるように、中小企業においても、人権侵害が発生する可能性が
あることがわかります。中小企業も、人権DD を実施し、人権侵害の防止に取り組むこと
が求められます。

5.欧米などの人権デューデリジェンス義務化

これまでは国際的な宣言やガイダンスに沿った企業の自主的な取り組みが奨励されてき
たが、特に欧州では自主的な取り組みでは不十分との判断から、法制化によって人権デュ
ーデリジェンスを義務付ける国が増えてきている。

6.日本の動き

・日本政府は2022 年9 月13 日、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための
ガイドライン」を発表した。同ガイドラインは、人権デューデリジェンスの実施方法が
わからないとする企業の声に応えるものでもある。
・日本でも超党派の議員連盟が欧米並みの法制化に向けて近く条文作りに着手する。背景
には、19 日から始まる主要7 カ国首脳会議(G7 サミット)の議長国でありながら、整備
の遅れが指摘される日本政府の焦りもにじむ。(毎日新聞、2023 年4 月30 日)

7.人権DD の法制化に伴う、特に中小企業のメリットとデメリット

【メリット】

・企業としての信頼性が向上し、社会的評価が高まることで、顧客や従業員の獲得や定着
が期待できる。
・人権侵害に対するリスクマネジメントができることで、企業のリスク回避や低減に繋が
る。
・人権DD を通じたCSR の実践ができることで、企業としての社会的責任を果たすことが
できる。
・人権DD の実践によって、労働環境の改善や従業員の働きやすさの向上、業務プロセス
の最適化など、企業内の生産性向上に繋がることが期待できる。

【デメリット】

・小規模な中小企業にとって、人権DD を行うための人的・財政的リソースが限られてい
るため、その負担が大きくなる可能性がある。
・人権DD に関する法規制や指針が適用されることで、事業活動に制限が加わり、コスト
がかかることが予想される。
・人権DD の実施が求められることで、企業の経営者や社員にとって、新たな責任や義務
が課せられることになるため、その負荷が大きい可能性がある。

8.人権DD の実施プロセス

人権デューデリジェンスの具体的流れは主に4 つのステップを繰り返すことで実施します。


9.人権デューデリジェンスの取り組み例

日本企業における人権デューデリジェンスの取り組み事例を以下に示します。
・第三者・専門機関の参加によるリスク特定
・高リスクと判断された事項の行動計画書を作成
・第三者機関による追跡調査
・社内ホットラインや取引先向けホットラインの設置
・人権デューデリジェンスに関する行動計画・取組状況を報告書としてウェブサイト上に
公表
人権問題の対処には、公平・公正性が求められます。そのためか、第三者や専門機関と連
携した取り組みが多く見られました。
参照:外務省 ビジネスと人権に関する取組事例集

10.人権デューデリジェンスに取り組む際の注意点

人権デューデリジェンスにあたり、注意点があります。
・事業上のリスクだけでなく、人間への対応でもあるという視点を忘れない
・措置・予防・軽減に優先度をつける
・継続的&長期的に取り組む
・負の影響範囲を加味し、さまざまなステークホルダーを意識した措置をとる
・人権尊重に関する方針を事業戦略・計画に反映させる
人権デューデリジェンスは、継続的に企業が人権を尊重する姿勢を見せる取り組みです。
確かに、人権問題は企業の業績に影響を与える可能性のある事業上のリスクではあります。
例えば、1990 年代にナイキが東南アジアの工場で劣悪環境の下で労働させていたことが発
覚し、ナイキ不買運動にまで発展しました。しかし、人権尊重に対する取り組みは、本質
的には、人間への対応であることを忘れないようにすることが大切です。それが、人権リ
スクに対する適切な対応へとつながります。

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