はじめに
債権回収とは、簡単に言えば商品やサービスを売った代金を払わない客から売掛金を回収するということです。なんとなく相手を信用し、手続きとして信用調査をし、指定日に集金がなければ相手と連絡を取れば回収することができると軽く考えがちです。
しかし、相手がに悪意がる場合回収にかかわる業務はとても負担が大きく、高いリスクとなります。今回は、債権回収について学び、リスクを最小限にできればと思います。
一般的な感覚
一般的な、債券回収のイメージは下記のようかとおもいます。しかし、このような考え方では甘いのです。
- 弁護士に相談すれば、何とかしてくれる
- 債権回収の責任は、すべて債務者にある
- 裁判所に命令があれば、回収できる
弁護士に相談すれば、なんとかしてくれる
債権回収を進めるに当たり、初めに確認すべきことは、だれがどのように債権回収を進めていくかです。その答えとして弁護士に相談するのは正解です。しかし、弁護士に相談すれば後は任せて、OKと考えるのは間違いです。
債権回収の責任は、すべて債務者にある
支払が滞るのは、債務者のせいであることは間違いないですが、その要因は、債権者にあることも多い。相手を疑わず取引してしまった、支払いが少し遅れているが大丈夫、等甘い考え方をしていることもある。
裁判所の命令があれば、回収できる
裁判所の命令(判決)があれば強制執行でき、回収できるというのは間違いです。債権者側で、債務者の財産を特定しなくてはなりません。例えば、債務者の預金口座がどこの銀行のどの支店にあるか?、どの不動産を保有しているか?、などを債権者が特定しなくては強制執行できません。裁判所は、債務者の財産の有無や場所などを特定してくれるわけではないのです。その様な、債権者に不利な状況を見直すため、令和2年4月1日に改正民事執行法が施行され、財産開示手続という制度がスタートしています。
回収までの流れ
回収までの簡単な流れは、①話し合いによる、②法的手続き、ということになります。話し合いによる回収とは、債務者との話し合いのことです。まずは、債務者に面会し(できれば)、相手がどのような状況にあるか?どのような計画で返済してもらえるのか?など交渉します。法的手続きについては、裁判所による法的な書面を送付することから始まり、最終的には裁判・強制執行までとなります。当然ですがこの手続きは非常に煩雑になるばかりだけではなく、時間と労力がかかるので、避けたいところです。
信用調査について
このような状況を防ぐために、信用調査を活用するかと思います。しかし、この調査は調査企業単体の調査であり、持ち株会社の様な構造になっている企業については情報が不十分なことが多いと言わざるを得ません。企業上の親子関係がなくても実質オーナーが同じであったり、事業別に会社として分割している場合が該当します。その様ば場合は、関連企業すべてを調査することが出来ないので、リスクを測ることは難しい状況になります。
その様な場合は、面談している当事者の眼力しだいということになります。
弁護士とのかかわり
最初に弁護士とのかかわり方を、当事者は債権者で弁護士はあくまでアドバイザーであると述べました。しかし、弁護士の特性は重要かと思います。弁護士は法律の専門家である一方で、債権回収の事案での相手との交渉力、背景、今までの経緯の把握、相手との関係性、などは当事者の方が熟知していますので、両輪で回すのがベストではないかと思います。また、顧問弁護士の場合、会社と弁護士との契約内容も確認する必要があるかと思います。
債権回収における様々な法律について
債権回収についてすべてを説明することは、現実的ではありません。詳細については専門家である弁護士に任せるとして、当事者として知っておいた方がよい法律についてご紹介します。なお、この記述は筆者の主観も入っているので正確ではない場合があります、詳細は裁判所HPとうで確認願います。
即決和解
即決和解というのは,紛争の当事者同士で話し合いがついた場合に,その合意内容について簡易裁判所に和解の申立てをして裁判上の和解を成立させる手続のことをいいます。
即決和解が奏功すれば「和解調書」となり,晴れて当事者間の合意は債務名義となり,相手がその内容に従わないときには強制執行することができるようになるということです。裁判というものは、お互いの主張をぶつける場であるが、すでに主張が同じで合意できる場合は、裁判というプロセスが必要なく、和解が成立します。
遅延損害金(遅延利息)
契約書を作成する際に、支払いが遅延した際の金利を示す必要があります。この場合の金利をどうするか?を迷います。
1案:法定利率とする→現在は3% *3年ごとに見直すようです
2案:旧商法の金利 → 6%
3案:消費者契約法の上限 → 14.6%
この辺りが、案として考えられます。しかし、このような規定を契約書で儲けても、結局元本を回収出来たら、遅延損害金をあきらめるケースが多いようです。その理由としては、遅延損害金が大きくなりすぎてしまい、現実的ではなくなるから、また回収側においても、最悪元金さえ回収できればそれでいい、というマインドになるからと思われます。遅延損害利息はできるだけ大きくしておけば、債務者側も返済へのインセンティブにもなりますので、14.6%をお勧めします。
債務承認及び弁済契約書
売買契約などすでにある契約上の債務を承認するとともに、弁済についてどのようにしていくか改めて合意するものをいいます。つまり、既存債務の承認を前提とした履行に関する契約です。つまり、いくらの債務があるのかを確認し、どのように返済するのかを約束する、といった書類です。
メリットは、①消滅時効のリセット、②複数の契約をまとめる、③債務名義とする方法もある、等があります。(③については、執行認諾文言付き公正証書で契約書を作成する)
財産開示手続き
2020年4月1日施行の民事執行法が改正れ、改善されました。財産開示手続とは、債権者の申立てにより、裁判所が債務者を裁判所に呼び出し、債務者に自己の財産について陳述させる手続きです。改正前の民事執行法では、債務者が裁判所に出頭しなかったり、虚偽の供述を行ったりした場合は、30万円以下の過料が科されることが規定されてはいましたが、実効性は低かったのです。
改正法では、不出頭や虚偽の陳述をした場合は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されるようなりました(改正民事執行法第213条第1項)。過料と異なり懲役と罰金は刑事罰です。
23条照会・調査嘱託(裁判所照会)
「弁護士法23条の2に基づくご照会」といい、弁護士会が、官公庁や企業、事務所などに事実を問い合わせる照会のことです。照会に対しては、回答義務があります。調査嘱託(裁判所照会)というのは、債務名義がある場合に裁判所に申請をして、官公庁や企業、事務所などに事実を問い合わせる照会のことです。23条照会より強力な効果があります。
ただし、この調査嘱託の申立に応じるかどうかは,裁判所の裁量です。その裁判に必要かどうかの「必要性」を詳しく明らかにする必要があります。また、いずれも正当な理由があれば、回答拒否できると考えられています。
法人格否認
法人格否認の法理(ほうじんかくひにんのほうり)とは、法人格が形骸にすぎない場合や法人格が濫用されている場合に、紛争解決に必要な範囲で、法人とその背後の者との分離を否定する法理。
債権回収において、法人を利用し弁済を回避していることが明らかな場合は、別人格である法人と代表者の分離を認めないということです。ただし、これが認められることはまれのようで、実用的とは言えないようです。
第三者破産
債権者破産とは、債務者ではなく債権者側が債務者に代わって行う破産手続きです。つまり、債務者が債務者を破産させる手続きのことです。
これは、最終手段といってもいい手続きで、基本的には債権者にはメリットがない考えた方が良いです。債権者を破産させることで、没収された財産は、すべての債権者に平等に分けられる為、債権者が多い場合はその割合しか回収できなくなってしまいます。
まとめ
債権を回収するのは、とても手間のかかる作業となります。支払う意思のない相手から代金を回収するのは、現在の法体系では債務者が割を食うようにできています。2020年4月の民事執行法改正もありましたが、まだまだその状況は変わっていません。このような事を防ぐためには、取引相手を慎重に見極めるということが大事かもしれません。
それは、信用調査のような書面ではなく、人と人のつながりといったことかもしれません。万が一、回収不能案件が出ても落ち着いて対処できるように、知識を持っておくことが大事だと思います。